フジテレビの「とんねるずのみなさんのおかげでした」の雪上運動会の収録中、お笑いコンビ「ずん」のやすさんが大怪我を負ったのは先月のことでした。
今週発売の週刊文春によると、やすさんは、腰椎破裂骨折、両下肢マヒなどの重傷を負っています。
過去にもいろいろ事故はありましたが、タレントが収録に参加しているものは隠しようもなく発覚します。
しかし、タレントが参加していないものなら事故隠しもありえるとし、その中で放送史上おそらく最悪といえるケースがフジテレビの深夜番組『退屈貴族』であったと、週刊文春が報じています。
『退屈貴族』に「東洋のランボー」が出演するまで
その事故は、2003年10月から2004年3月までフジテレビで放送された、『退屈貴族』の収録で起きました。
『退屈貴族』は、退屈な貴族に扮したココリコと週替わりのゲストに刺激的な映像を見せ、表情を変えたものは画面から消えるという番組でした。
そういう番組ですから、制作側はより刺激の強いシーンをこれでもかと用意するわけです。
その中で今回事故を隠したと指摘されているのは、「東洋のランボー」として全国放送された、老人が燃えさかる炎の中を歩いたものです。
「火渡り」の一部始終
その撮影に至る状況はこちら。
<以下引用>
“火渡り”の企画は、安直な二番煎じであった。97年に放送された日テレの『投稿!特ホウ王国』を見たリサーチャーが、「火渡りと幽体離脱ができる老人がいる」とネタを上げてきたものだ。経緯は不明だが、老人がリンゴ箱をばらして燃やした上を歩く姿が放送されていた。
『退屈貴族』の社外スタッフSは11月下旬、老人に電話し出演を依頼、承諾を得たとされる。
12月4日昼、フジテレビのK、社外スタッフYの二人は電車で老人の家に向かった。軒先で、“幽体離脱”の撮影を2時間ほど行ったあと、河川敷に移った。ダンボールは老人が持参したが、灯油3リットルはフジテレビで用意した。そしてKらはビデオを構え、「お願いします」と火渡りの実行を促したのである。
<週刊文春>
老人は10歩ほど歩いたものの、途中で横に逸れ、膝に両手をつき青ざめた表情で「少し火が強かった」と言い、それでも気丈に「大丈夫」と声を出したそうです。
が、もちろん大丈夫どころではなく、火傷は足裏から太ももまでの広範囲に及んでおり歩くこともできず、スタッフKは老人を背負ってタクシーに乗せ、自宅に送ったそうです。
スタッフたちは確実にそのひどい火傷の様子を見ていたにも関わらず、2万円の出演料を払っただけで、火傷の処置は何もしなかったとか。
このロケから2日後に、老人の隣に住む兄嫁が異変に気づき、その3日後、容体がいよいよ悪化し、救急車で病院に搬送されました。
老人が負った火傷は、足裏から太ももにかけて、表面積の3割近くに最重度の三度という重篤なものだったようです。火傷の影響は皮膚だけに留まらず、多臓器不全に陥るなど重篤な症状が続いたそうです。
警察の問い合わせにフジテレビは…
事件性を疑った病院が警察に通報し、老人から詳細を聴きだした警察は、フジテレビに対し問い合わせたものの、フジテレビは5日間の「調査」後、「該当するロケはない」と回答したため、警察は自傷事故として処理しました。
いくらフジテレビが巨大企業であり、『退屈貴族』がスタッフの少ない深夜番組とはいえ、なぜ「該当するロケはない」なんて回答になったのか…
結局、この老人が火傷した問題のシーンは「東洋のランボー」として放送され、それを見た視聴者が「やりすぎだ」という声を寄せたことにより、初めて警察から問い合わせを受けたロケが実在したことに気づいたということですから、フジテレビの「調査」がいかに調べていないか、ということですね。
フジテレビの事故対応で行われた隠蔽
その後、フジテレビは事故対応を始めるわけですが、その中で3つ、問題点がありました。
出演依頼の詳細を隠す
ひとつめは老人の兄夫婦への状況説明の際、火渡りに至った出演依頼の詳細を明らかにしなかったこと。
兄夫婦は老人から持ちかけたと思いこんでおりそれに乗っかった形ですが、兄夫婦は老人にも落ち度があると考え、ことを大きくしなかったようです。
警察への事情説明は天下り顧問が行う
もうひとつは、警察への事情説明を、フジテレビに顧問として天下りしていた元警察幹部が行ったこと。
結果、業務上過失傷害の疑いもあったものの不問とされ、スタッフの事情聴取さえなかったそうです。
事件を隠蔽
最大の問題は、事故を公表しなかったこと。
そのため、ロケに居合わせた制作担当者はもちろん、責任者もなんの処分も受けないどころか現在では昇進までしているとか(責任者の一人は港浩一氏。後にフジテレビ社長にまで昇進も、中居正広事件により辞任。2025年2月9日追記)。
周りも事故を知らなければ教訓にすることもできず、結局同じ事を繰り返すことになります。
老人の事故の際、フジのスタッフは火を使うロケにも関わらず消化器を用意せず、バケツ一杯の水だけでこのロケに臨んだそうです。
もしも老人の全身に火が回るようなことがあったら?風が吹いて燃えるダンボールが飛んでしまったら?
そんな「想定」をせず危険なロケを行う体質が続いていると思わざるを得ないのが、やすさんの事故です。
やすさんの事故のときは、停止用に設置された雪山が逆にジャンプ台になり、物置小屋の屋根に激突後、5メートル落下したようです。
ちなみに公式レースでは停止用にはフェンスを設置するとか。
本気で安全を考えていれば、フェンスを設置したのでは。
「火渡り」の老人は。
気になる火傷をした老人のその後ですが、手術を繰り返したものの歩行ができるようにはならず、一度も自宅に帰らないまま、07年9月、都内の病院で腎不全で死亡したそうです。
腎機能の低下は、火傷によってもたらされたものだとのこと。
ご冥福をお祈りいたします。
【情報参照:週刊文春】

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